業務ソフトウェア業界では「SoE」という言葉をよく耳にします。
また、対比される言葉として「SoR」「SoI」があります。どれももシステムを設計する際の考え方を表す言葉です。
本記事では「SoE」「SoR」「SoI」について解説し、具体的なシステムやツールについて紹介します。
1.SoEとは
SoEとは「System of Engagement」の略語でエンゲージメントのシステム、すなわち「顧客とのつながり」を意識したシステムです。具体的なシステムの例として、CRM(Customer Relationship Management)やERP(Enterprise Resource Planning)があげられます。
また、システム設計概念の用語としてSoR、SoIがあります。それぞれの違いを以下に解説していきます。
2.SoR/SoE/SoIそれぞれの違い
特徴 | 具体的なツール | |
---|---|---|
SoR(System of Records) | 正確に記録することを重視 | 会計/人事/受発注管理/製造管理システムなど |
SoE(System of Engagement) | ユーザーとのつながりを重視 | CRM/電子メール/SNS/グループウエアなど |
SoI(System of Insight) | 情報や分析から有用な洞察を得ることを重視 | BI/ERPなど SoEやSoRと組み合わせて利用 |
SoRは情報を正確に記録するシステム
既存の業務システムはSoR(System of Record)と言われ、正確に記録することを重視して設計されます。ERP等の基幹系のシステムに加え、Eメールやファイル共有でも使用されてきました。
設計・運用において、正確性、信頼性、安定性が重視され、データ構造も最初の設計段階と大きく変化することはない静的なシステムです。
SoEはユーザーとの関係を強化するシステム
SoE(System of Engagement)とは、ユーザーとのつながりを重視して設計されるシステムを指します。
SoEでは入力した情報を記録し、共有することだけが目的なのではなく、実際にユーザーに活用され、ユーザーとシステムとの関係を強化することを目的としています。 ユーザーとの関係は常に変化するため、一度定義したデータ構造も動的に対応する必要があります。同じシステムと言っても、運用方法はSoRとは異なります。
SoIはSoRやSoEと組み合わせ、顧客を洞察するシステム
SoI(System of Insight)は蓄積された情報を分析し、顧客ニーズや購買に至るプロセスなどを洞察するためのシステムです。
分析を行うことで新たなニーズの発見やサービス改善、新たなサービスの創出に繋がります。分析は蓄積されたデータをもとに行われるため、SoRやSoEと組み合わせて利用されるケースがほとんどです。
3.なぜ重視される?SoEを実現させるITシステム
SoEは米国のマーケティングコンサルタント、ジェフリー・ムーアが2011年に提唱し、一気に広まりまったシステム設計概念です。 これは経営においてITがさらに重視され、システムがユーザーとの関係強化を求められるようになったことが背景にあると言えるでしょう。
エンジニア観点から見ると、「どのようなデータを集めるのか」を中心にシステム設計を考えるのがSoRであり、「どのようなユーザー経験を提供するのか」を中心にシステム設計を考えるのがSoEと言えるでしょう。 ユーザー体験を重視するSoEですが、未だに世の中のITシステムの大半はSoRの設計思想に基づいて開発されています。SoRに基づいて設計されたシステムは導入しても現場に浸透せず、結果として誰にも使われなくなることが多いようです。
SFA/CRM導入失敗の理由はSoRの概念が原因!?
ERP等の基幹系のシステムの導入に比べ、営業報告など営業活動を支援するCRM/SFAは導入に失敗しているケースが多いと言われており、ツールの課題となっています。 米国のリサーチ会社によると、この十数年で導入されたCRM/SFAプロジェクトの30~60%が失敗に終わっています。
【出典:フォレスターリサーチ社 https://go.forrester.com/】
その理由として「7割はせっかく導入してもユーザーに活用されないことに起因する」とされています。 なぜSFAシステムは、ユーザーに活用されないのでしょうか? ITトレンドの分析では「入力の面倒さ」「無駄な機能の多さ」「結果的な仕事増」などがあげられており、ユーザビリティに課題があるといえます。
【出典:https://it-trend.jp/sfa/article/failure_case】
SoEの概念が2011年に生まれたと考えると、それ以前のシステムは、SoRの概念で設計されています。 データを記録することが実務と直結している人事や経理の業務であれば、SoEの要素は、そこまで重要ではありません。たとえ、入力が面倒で煩雑でも、データを記録すること自体の重要性が認識されているため、問題がなかったのでしょう。 しかし、営業支援システムの場合、データを記録して情報共有しても営業の成果に直結しにくいという課題があります。営業社員としては、顧客への付加価値を提供することが本質であると考えている場合が多く、営業報告するのに入力が面倒だと活用されにくいのも当然でしょう。
システム導入担当者と、現場のニーズは異なる
ほとんどの企業において、ITシステム導入の担当者と、実際に現場で使うユーザーは異なります。(情報システム部や管理職が導入し、営業部が使う、など) また、システム導入の目的においても、データの集計や分析が行いたい管理職と、業務効率化に繋がってほしい現場ではニーズが異なります。 ここを理解し、「現場の業務効率化や生産性向上」に繋がるシステムでなければ、実際に運用が成功することは難しいでしょう。
現場と管理職のニーズの違い
個人レベルでオペレーションを回す現場と、チームのマネジメントや役員へのレポート業務が必要な管理職では、システムに求める要件がそもそも異なります。 現場ではシステムの使いやすさや、業務に役に立つかどうか、というところが重要視されるのに対し、管理職はデータの集計や分析といったことを重視します。
業務改善は現場のオペレーションのPDCAを高速で回して改善していく必要がありますが、管理職目線でのツール選定を行ってしまうと現場に不必要な負担を強いることになり、本末転倒な結果になりかねません。 システム導入をする際は「現場に使われるツールとは何か?」ということを常に考えながら選定する必要があるでしょう。
業務で使われるシステムとは?
SoRの概念で設計されるシステムは、「情報を入力して記録する」ことが重視される情報システム部や経理、管理部が利用します。そのため「入力しやすいUI」や「ストレスフリーな操作性」はあまり重視されません。 しかし「情報入力」以外にも顧客への訪問で時間の余裕がない営業部などでSoRの概念で設計されたシステムを利用するには、業務の負担増につながってしまうことが多いのです。
対して、SoEの概念で設計されたシステムはユーザビリティが重視されているので、比較的現場の負担を増やすことなく業務の効率化が狙えます。 ITツールやシステムを新たに導入する際、現場の営業担当者にとっては特に以下の3点が重要です。
①入力が簡単
管理職にとっては集計や分析機能が豊富で多機能なツールは魅力的です。しかし時間がない営業担当者にとって、マニュアルを見なければ入力ができないようなシステム・ツールは確実に使われません。
しかし、分析をするには営業現場の正しい情報が必要です。そこでまずは多機能であることよりも確実に情報を収集できる入力が簡単なツールの導入をお勧めします。入力に時間がかかったり、使いづらくストレスになるようなシステムでは、そもそも「分析するためのデータが満足に上がってこない」ということになってしまいます。
②動作が軽く使いやすい
毎回ソフトを起動するのに数分かかるようなシステムや、画面遷移に時間がかかるようなツールでは、毎日使う現場の担当者としてはかなりストレスが溜まります。とにかく、「サクサク動くこと」が毎日使うユーザーにとっては重要です。 その点も設計段階から考慮に入れられているのがSoEですので、現場に優しいシステムだといえるでしょう。
③自分の役に立つ
実は、現場にとってはこれが最も重要です。 新しいシステムが導入されたが、そのシステムへの入力に時間がかかり残業時間が増えてしまう、というのは本末転倒です。本来ITツールは、人間が行っていた作業の負担を軽減するためのものです。 現場の業務負担が減るようなツールを最優先で導入しましょう。
4.まとめ
今回は
・SoR/SoE/SoIの違い
・ITシステム導入の際の注意点
・システム導入担当者と現場のニーズの違い
上記の内容について紹介しました。 今の組織に何が必要なのか、ツール活用の検討や調査の際にはシステム設計の概念も参考にしてみてください。