企業で人事をつとめていたり、教育を担当したことがある方は「OJT」という言葉をよく耳にすると思います。
OJTは簡単に言ってしまうと、「実務を通して行われる教育方法」のことを指していますが、「ただ業務を行わせるだけ」という方法では、OJTの効果を十分に得られないことをご存知でしょうか?
十分な効果を出していくためには、基本となる進め方や注意しなければならないことを理解した上で、取り入れることが重要と言えます。そこで今回は、OJTの進め方や成功に導くためのポイントなどを解説していきます。
「OJTの導入を考えている」「今行っているOJTを改善したい」という方、さらに「OJTの担当になったけど、なかなか新人が育たない・・・」と悩んでいる方は、ぜひ参考にしてみてください。
1.OJTとは?
OJTとは「On-The-Job Training(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)」を略した言葉で、上司や先輩など、教育担当となった社員と一緒に実務を行うことで仕事を覚えていくという研修方法です。
特に新入社員に向けてOJTを行っている企業も多いことから、新入社員に向けた教育や指導だけをOJTと呼んでいる方もいるようです。しかし、本来は年代や立場などに関わらず、現場で実務を通して行われる教育は総じてOJTと呼ぶことができます。
OJTが始まったのは、第一次世界大戦中のアメリカと言われています。造船所で働く作業員の補充が急きょ必要となったとき、従来通りの新人訓練ではとても間に合わないため、即戦力を教育できるOJTという教育方法が生み出されました。
OJTの進め方は「4ステップ」
OJT制度を実際に取り入れる際に注意したいのは、ただ単純に「実務を行ってもらう」というだけでは、十分な効果が得られないということです。OJTの基本的な流れは、「4段階職業指導法」とも呼ばれている4つのステップに分けて考えていく必要があります。この4つのステップを踏んでいくことで、初めて十分な効果を得ることができるのです。
それぞれのステップについて、詳しくみていきましょう。
ステップ1:やってみる(Show)
まずは、実際の業務を先輩が行って、その様子を教わる側に見てもらいます。現場でどんな業務が行われているのかを見ることで、教わる側は業務のイメージをつかむことができます。
ステップ2:説明する(Tell)
業務の意味や必要性・背景などを交えて、内容を説明をしていきます。自分が行う業務に対して、理解を深めていくことが目的です。また、「やるべきこと」や「やってはいけないこと」を伝えるとともに、不明点や疑問点を洗い出し、解消していきます。
ステップ3:やらせてみる(Do)
ステップ1~3までの工程で、業務の流れは理解できているはずが、それをすぐに実践に移せるとは限りません。教わる側が実際に業務を行ってみることで、どこまでできるかを見ていきます。その際、簡単な業務から順に行い反復させることで、知識が身についていきます。
ステップ4:評価する(Check)
ステップ3で実際に業務を行ってみたあと、教える側がその内容を確認し評価していきます。そこで見えてきた「改善していくべき部分」「反省するべき部分」のフィード
OJT実施前後に考えておきたいポイント
OJTを成功させるためには、実施する前や後にも考えていかなければなければならないことがあります。実施中だけでなく、しっかりと準備などを行うことで、OJTの効果も上げることができますので、時間はかかるかもしれませんがきちんと行っていきましょう。
それぞれを詳しくみていきます。
実施前に行うこと
◎教育後の人物像を把握する
「OJTが終わったあと、どんな人物になって活躍してほしいのか」をしっかり把握することで「どんな教育を行っていくべきか」ということが明確になります。◎教わる側の現状を把握する
OJTが始まる前に、教わる側がこれまで積んできた経験やスキル・知識レベルを確認し「今回のOJTで何を補っていくべきか」を把握しておきましょう。◎教える側となる担当者を選ぶ
教わる側の経験値や、研修内容を踏まえて教育担当者を選びます。たとえば、積極的にコミュニケーションを取っていきたいときは同年代の社員を選んだり、レベルの高い業務を教えたい時には、経験の長い社員を選ぶこともあります。◎OJT計画を立案する
教える側となる担当者が決まったら、OJTの計画を立てていきます。具体的には、研修内容やスケジュールなどを確定していきます。その際、「企業として望むこと」と「教える側の認識」にズレができないよう、気を付ける必要があります。OJTは、教える側の意識や能力によって効果が大きく変わる教育方法と言われることが多くあります。そのため、OJTを実施する前には教える側も十分心構えをしておくと良いでしょう。
まず、「OJTで業務を教えることにより、自分はどう成長していきたいか」といった根本の部分を明確にしておく必要があります。「人に教える」という行為が、自分自身の成長につながるという意識を持つことが重要です。また、新入社員や後輩に対して「どのようなマネジメントをしていきたいか」といった部分も押さえておくと、自分自身の目標が設定しやすくなります。
実施後に行うこと
◎教わる側へフィードバックを行う
「実施して終わり」というOJTでは、大きな効果を上げることはできません。「出来ていること」「出来ていないこと」を明確にして、しっかりとフィードバックを行っていくことが大切です。研修の期間が終わってからも、出来ていないことは引き続き反復してフィードバックを行い、実際に一人で業務ができるようになるまで導いていきましょう。
教わる側が効率的に成長していくために、以下の要素を意識して、こまめにフィードバックすることを心掛けましょう。
【1】できたこと(Can)
行った業務の中から、「良かった点」や「なぜ上手くいったのか」といった、「できたこと」を中心に振り返ります。
【2】維持すること(Keep)
業務内容や仕事の進め方について、「今後も続けたほうが良いこと」を考えていきます。
【3】変えること(Change)
できなかった点を踏まえて、「今後変えていくべきこと」「改善していくべきこと」を考えます。できていない部分をダメ出しするだけでなく、今後のためにどうしていくかという部分まで考えていく必要があります。
【4】挑戦すること(Try)
【1】~【3】までを踏まえて、今後さらに成長していくために「チャレンジしていくべきこと」を考えます。
このようなフィードバックを繰り返すことによって、教える側も教わる側も効率的に成長していくことができるはずです。
2.OJTとOFFJT(OFF-JT)の違い
前項で解説した通り、OJTは実際の現場で実務を通して行う教育や指導方法を指しています。業務を行う上で必要な知識・スキルを、実際に業務を担当している社員を教育担当として、新入社員や後輩へ教えていきます。
そして、OJTと比較されることが多いのが「OFFJT(OFF-JT)」と呼ばれるものです。OFFJTは、「Off-The-Job Training(オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)」の略称で、職務の現場を離れて行う教育や指導方法を指しています。OJTを直接的なトレーニングと言うならば、OFFJTは間接的なトレーニングとも言えるでしょう。
具体的には、社内の研修施設や会議室などを利用して行う集合研修、外部の講師によって行われるセミナーへの参加などがあります。
以下の図に、OJTとOFFJT(OFF-JT)の違いをまとめました。
OJTは「即戦力を育成する」ことに長けており、研修後すぐに活躍していくための知識・スキルを身につけることを目的としています。一方OFFJTは「知識やスキルを体系的に、多人数に身につけさせる」ことに長けています。
たとえば新入社員が多数いる場合は、社会人として必要なビジネスマナーやスキルなどを習得させるにはOFFJTを活用した方が効率的と言えるでしょう。基礎として、全員に身につけてほしい知識がある場合、OJTで個別に教えるとなると大変効率が悪くなってしまいます。
逆に、OFFJTだけを行っても実際の業務の中で活躍できるかどうかは、また別問題です。座学で学んだものを実践で活かすためには、OJTによる教育も必要と言えます。
どちらの教育方法にもメリット・デメリットがあるため、効果的に研修を行うにはOJTとOFFJTを併用したり、状況に合わせて使い分けていく必要があります。人材育成のための第一歩として、どういった研修制度を選ぶかは、大変重要な選択なのです。
3.OJT制度のメリット
ここからは、「OJT制度を取り入れるとどんなメリットがあるのか」ということを解説していきます。OJTを上手く取り入れていくことで得られるメリットは大きく、企業の成長につなげることもできるはずです。
一つずつ解説していきましょう。
個人に合わせて柔軟に内容を変更できる
OJTでは、一人ひとり個別に教育を行うことが多く、理解度や特性によって、期間内の研修内容やスピードを柔軟に変更していくことが可能です。苦手分野に研修の比重をおいたり、個人の理解力に合わせて進めていけるため、疑問などを残しにくい点もメリットと言えます。
即戦力を生み、短期間で会社全体の力をあげられる
実際の現場で研修を行っているOJTでは、講習やセミナーで教育を行うOFFJTよりも、はるかに「イメージしていた業務」と「実際の業務」にズレを感じることが少ないと考えられます。その後も即戦力として活躍することが可能になるため、その点は非常に大きなメリットと言えます。
教える側の成長にもつながる
教育担当としてOJTに参加する社員も、「人に教える」経験をすることで、自分自身の成長も実感することができるはずです。普段は特に意識せず行っている業務も、改めて意味や必要性・背景などを考えたり、人に教えるために噛みくだいてみることで、業務への理解度もさらに高まっていきます。
低コストでの教育が可能
OJTと比較されることが多いOFFJTでは、社外の講師を招いたり外部のセミナーに参加したりといったことが多いので、研修を開くのにコストがかかってしまうといったデメリットがあります。それに対してOJTは、研修のために特別コストをかける必要がありません。
社内のコミュニケーションが活発化する
外部の講師を招くような研修とは違い、OJTでは社内の上司や先輩社員が教える側になり、新入社員や後輩に業務のノウハウを伝えていくことになります。当然その中で、コミュニケーションを取る場面が多く生まれることから、OJTが終わったあともスムーズに職場に溶け込むことができるはずです。
4.OJT導入の課題
前項でご説明した通り、OJTを行うことで得られるメリットは多くあります。しかし、導入を考える際には、OJTにおける課題も十分に認識しておく必要があるのです。
メリットだけを安易に捉え、教育担当者への教育をおざなりにしてしまったり、逆効果になってしまうような研修は避けなければいけません。ここで解説する課題をどのようにクリアするかも、検討しておきましょう。
一つずつ解説していきます。
教える側の能力により、教育に差がでる
OJTは、教える側となった社員の性格や能力によってとても差がでやすい教育方法と言えます。たとえば、教える側として選ばれたものの業務についてよく理解していなかったり、独自の汎用性に欠けるノウハウを教えてしまったりすると、応用力に欠ける業務方法が伝達されてしまう可能性もあります。
教える側の状況によって、教わる側が放置されやすい
教える側が忙しすぎるポジションについていたり、企業自体が人手不足に悩んでいたり、そういった状況があると、教わる側が放っておかれてしまうことがあります。こういった扱いを受けることで、新入社員がすぐに退職してしまう、ということもよく起こります。OJTを行う際は現場だけに任せずに、企業として実情を把握して逐一フォローを行っていきましょう。
教える側の負担が大きい
教育を行う社員は、いつも通りの業務をこなしつつ指導・教育を行っていくことになります。その負担が大きくなると、実務が滞ってしまう可能性も考えられます。物理的にも精神的にも、教える側が抱える負担が大きくなってしまうことを理解した上で、企業は教える側のサポートもしていきましょう。
体系的に学びづらい
現場で業務を覚えていくOJTでは、業務全体の流れや作業の位置づけなどといった全体像がなかなか見えてこないことがデメリットです。業務単体としてでなく、業務を体系的に捉えていくためには、OFFJTも併せて行っていくことも選択肢の一つと言えるかもしれません。
フィードバックがおざなりになりやすい
OJT実施後には必ず「確認」と「評価」、そして「改善」が必要となります。これは「OJT実施前後に考えておきたいポイント」としてご紹介した通りです。しかしながら、このフィードバックがきちんと行えていない企業も多くあるようです。「業務を教える」ということで満足することなく、その後のフォローまでがOJTという認識が成功の鍵となります。
5.OJTに向いている業務・向いていない業務
OJTにたくさんのメリットがあるとはいえ、どんな業務にも適しているとは言えないのも事実です。本当にOJTで研修を行うべき業務なのか、不安に思っている方は、ぜひチェックをしてみてください。
OJTに向いている業務
イレギュラーが起こりにくく、ルールが確立されている業務
業務のルールが確立している場合は、教える側の能力に多少の差があっても、教育自体には差が出にくいということになります。さらに、マニュアルを作成しておくことで、この差は限りなく小さくすることが可能ですし、お互いの負担も少なくて済みます。
業務効率が一時的に低下しても、経営上の問題がない業務
「実務が滞る可能性がある」という課題をご紹介した通り、OJTは業務中に併せて教育を行っているため、業務効率が下がってしまう可能性も含んでいます。業務をフォローしてくれる他の社員がいない場合は、これが顕著に表れることも。このことから、業務効率が下がっても経営に大きなダメージを与えない業務であれば、OJTでの研修を取り入れることが可能と言えます。
OJTに向いていない業務
仕事の進め方が変わりやすく、イレギュラーが起こりやすい業務
仕事の進め方が変わりやすい業務や、イレギュラーがよく起こる業務となると、教える側にかかる負担が大きすぎるため、OJTには向きません。
新制度やシステムを導入する業務
新しい制度やシステムを導入する場合、まだ教える側の知識やスキルがまだ足りていないことが多いため、OJTには向かないでしょう。
合っていない業務に対してOJTを行ってしまうと、逆効果になってしまう恐れも・・・。研修を始める前に今一度、向き不向きを見直してみてはいかがでしょうか。
6.OJT制度が成功している企業から学ぶ、3つの成功ポイント
OJTはとても誤解されやすい教育方法です。「OJT=目先の業務の進め方を教える」という意識を持っている方も多いかもしれませんが、OJT制度を上手く取り入れている企業では、大原則として3つのポイントをしっかりと意識しています。
このポイントをきちんと押さえられているかどうかが成功の鍵になりますので、ぜひ参考にしてください。
ポイント1:意図的
意図的とは、「どのような目的をもってOJTを行うのか」を、しっかりと理解することです。なぜこの教育方法が有効なのか、この教育にはどんな効果があるのか、教育担当者だけではなく組織として共有を行っていきます。「OJT終了後には、一人で○○ができるようになる」といった具体的な目標も決めておきましょう。
ポイント2:計画的
計画的とは、しっかりとした育成計画に基づいてOJTが行われていくことを意味します。具体的な目標を掲げ、そこに至るまでの経過も段階的に設定していきます。習得までには個人によって差が出るため、計画通りに進まないこともあるかもしれません。進捗が思わしくない場合には、遅れている原因やどうしたらスムーズに進められるかといったことを考える機会を設けましょう。
ポイント3:継続的
継続的とは、一度で終わらせるのではなく一定期間反復的にOJTを実行することを意味します。すべての業務を、一度で習得できる人はなかなかいません。どんな業務も何度も継続・反復して覚えていくことが必要です。
7.OJTお勧め書籍
これからOJT制度を取り入れていこうという企業や、OJTの教育担当になった方にお勧めしたい書籍を紹介します。基本から書かれている書籍が多いため、OJT初心者にも参考にしていただけるはずです。
8.まとめ
OJTは、社員の成長や組織力の向上につながる重要な取り組みです。最後にもう一度、OJT制度を成功に導く「3つのポイント」をおさらいしておきましょう。
- 意図的…「どのような目的をもってOJTを行うのか」を理解すること
- 計画的…しっかりとした育成計画に基づいてOJTが行われること
- 継続的…一定期間、反復的にOJTを実行すること
このポイントをしっかりと押さえることで、OJT制度を効率的・効果的に行うことができるはずです。なんとなくOJTを行っている企業がとても多く見られますが、一つひとつのポイントを丁寧に進めていくことで、今までとは違った結果が見えてくるかもしれません。
「これからOJTを取り入れる」という方も、「OJTの効果が上がらない」「教育担当になって不安を抱えている」という方も、ぜひ今回ご紹介した内容を参考にしてみてください!